加々見 太地|Taichi Kagami

雲ノ平山荘

加々見 太地|Taichi Kagami

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【加々見太地さんの仕事】

はじめて加々見くんのポートフォリオに目を通した時の衝撃は忘れられない。
その作品群は力強く緻密な表現性に満ちていて、20代の若者が生み出しているとは思えない、明確な世界観に裏打ちされていた。現代の視座として、伝統工芸、近代彫刻や新表現主義、ブリコラージュ手法などの広い領域を包摂しながらも、中心に揺るぎない生命感が貫いている。
彼は彫刻作品を発表する傍らで、アラスカのデナリ山や冬季の槍ヶ岳のクライミングなど、本格的な登山活動も展開しており、登山の経験から得られた自然界の肌触りを自らの芸術表現に落とし込むことによって、「自然」⇄「アート」、「外的な世界」⇄「内的な世界」双方向の旅を深めている。
過酷な山行で感じる痛みや開放感、自由や限界を、直に木材(という生命)に刻み込むことで浮かび上がるもの。それは、意志と本能の狭間にある根元的な「人間存在」に対する思索へと連なって行く。
「彫刻作品は他の表現分野に増して、完成した後は作者の個人性や人格を離れ、世界の景色の一部として自立的な存在になることが面白い」と彼は語る。
今回の山荘滞在で生み出された「旅人」の彫像も、自然物としての「木」(倒木)から始まり、その倒木を切り出し、45kgにも及ぶ木塊を山荘まで2時間かけて担ぎ上げるという肉体的な体験を経て、無から作品を構想するイマジネーションの領域に移行する。そして彫刻の技巧的な造形の段階を積み上げてひとまずは完成となる訳だが、最後はまた作者個人から切り離され、自立的な物体に戻るというストーリーそのものが、一つのサイクルを成す思索であり、インスタレーションでもある。
自然から人間が生まれ、自然を人間が発見するというのは、果たしてどういうことなのか。
そして、原野に解き放たれた「旅人」は、どのような物語を人々に届けるだろう。
加々見くんの、山と人間、芸術をめぐる旅が、今後いかなる軌道を描いて行くのか、楽しみである。

(文:伊藤二朗 撮影:森田友希、赤錆健二 編集:赤錆健二)

Artwork

tabibito

Taichi Kagami

1993年 神奈川県生まれ
2020年 東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了

自身の身体で感じた世界や自然を通して、彫刻や写真を発表している。
登山活動にも力を入れており、ヒマラヤやアラスカでの登山を経験。人と自然との積極的な関わりに関心を持ち、自身の強烈な自然体験や、その周縁の文化や歴史を制作のテーマとしている。
公益社団法人日本山岳会創立120周年記念事業ヒマラヤキャンプメンバー。


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