渡邊 慎二郎|shinjiro_watanabe

雲ノ平山荘

渡邊 慎二郎|shinjiro_watanabe

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【渡邊慎二郎さんの仕事】

言葉にして語るのが、なかなかに難しいアーティストである。
実際に本人が現地に来るまで、何が起こるか一向に見当がつかない。採用した僕自身がそのような有様なのであった。
彼のステートメントには短くこう書かれている。
「人間本位の考え方から生き物としての精神性を獲得することを目的にしている。
人間の中にある植物性を引き出し、生き物になることを志向している。」
そして、極限状態の孤独でこそ、自己の生命の真相に触れることができるのではないかという探究心が、彼を山に惹きつけると。
彼のポートフォリオは、ユーモラスな謎に満たされている。
巨大な棕梠の木をリアカーに乗せて深夜の都内を練り歩き、最終的に作品として展示するインスタレーション。大勢の人たちが、各々に植物の鉢植えを携えて山手線に乗り込み、車両を植物で満たすドキュメンタリー映像。部屋の真ん中に置かれた観葉植物の傍に自身が正座し、厳かに水をやり、その事象を音響機器で音に変換するパフォーマンス。
一体彼は植物を通じて何を見ようとしているのだろう…、想像するほどに、奇妙な親しみと興味が湧いてきた。
植物を使ったインスタレーションが自明なコントラストになり得る都市の環境と違い、既に一面を植物に覆われた雲ノ平の環境で、何を表現するのか。
結果として、彼は雲ノ平で植物の写真を撮った。それも、実に普遍的で、美しい写真だ。
真夜中に山荘を出発し、雲ノ平、黒部源流や高天原の原生林を一晩中徘徊し、夜闇の中に息づく生命たちの気配を捉えた写真。日中僕らが見ている世界からはかけ離れた、異形な草木や、岩や水、夜の空間全体が渾然一体と脈動し、我々を飲み込んでしまう。そこには、人間の意識を超えた、全一的な世界の実存が刻みつけられている。
彼が確かめたかったものが、ただそこにあった。
切実に、自らの内に込み上げる存在への畏怖を通して「意味」という虚構を打ち破ろうとしている。その行方が美なのか、哲学的な達観なのかはきっと彼自身にも定かではなく、ただ、真実であり得るものへと近づこうとする。その営みそのものが、彼のアートである。

(文:伊藤二朗 撮影:森田友希、赤錆健二 編集:森田友希)

Artwork

shinjiro_watanabe

1995年愛知県生まれ。2021 年東京藝術大学大学院博士課程在籍。
空間や場所に浸る事で立ち現れる景色や事象との対話を通して作品を制作している。
私たち人間の身体は動物性と植物性の両側面で成り立っている、という考え方から、作品を通して人間の中にある植物性を引き出し、普遍的な生き物としての精神性を獲得することを目的としています。

主な展覧会に「Dyadic Stem」(The 5th Floor、2020)、「2020||: Wardian case :||」(BLOCK HOUSE、2020)、「Standing Ovation / 四肢の向かう先」(ACAO SPA & RESORT, 2021)


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