只野 彩佳|Ayaka Tadano

雲ノ平山荘

只野 彩佳|Ayaka Tadano

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【只野彩佳さんの仕事】

応募書類を受け取り、ポートフォリオに目を通した時に、僕は只野さんという人物に出会った。
当たり前のことではあるのだが、彼女の場合「その人がそこに居たから」そういう表現になる。
彼女は、旅人である。旅路に吹く風が絵画から溢れ出ていた。
優美で鮮やかな色彩。柔らかい描写ではあるが、徹底的に分解されて緻密に再構成され、自らが捉えた世界を無から表現しようとする強い意志を感じる。
志望動機にはこう書かれていた
「人の営みも自然も、長い年月の中で永遠にあり続けることはできませんが、変化や失われる中にある美しさや希望、痕跡を拾い集めて、私は私が美しいと思える景色を描きたいと思っています。」
山荘で初めて会った只野さんは、想像した以上に只野さんであった。雲ノ平に来るために登山を始めたとは言うが、その必死さを少しも感じさせることはない。白洲正子ではないが、ひと時代昔の大人物を彷彿とさせる、決して乱れぬゆったりしたリズム、そして確信を持ったことしか言葉にはしない。感情は浪費するものではなく、自らの中で色彩と形に結晶するまで、温存するかのように。
雲ノ平での日々、彼女はひたすら世界に向き合い、絵を描き、表現の糧になる会話を楽しんだ。
山小屋シーズンも終わった2021年12月、雲ノ平で描き始めた絵の完成作品も発表される個展が仙台で開催されるというので足を運んだ。
会場には、一面に彼女の旅が刻み込まれていた。
10年前の震災で、故郷の形ある景色が全て失われた瞬間から歩みは始まる。
彼女がどのように美しさや希望、痕跡を拾い集め、無から物語を再生させて来たのか。
津波の破壊、瓦礫に咲く花、死と祈り、記憶との対話、無常に広がる大地。
そして、その眼差しはやがて、自然の生命の営みに対する深い共鳴へとつながって行く。
彼女は、生命の輝きを全力で捉えようとしている。
長い旅の途上に、雲ノ平があったんだな…、そう思い知らされる。
只野さんとの対話は、今後も続けていきたいと思う。

(文:伊藤二朗 撮影:森田友希、赤錆健二 編集:赤錆健二)

Artwork

雲のあるところ

Ayaka Tadano

1992年 宮城県生まれ
2016年 武蔵野美術大学造形学部日本画学科 卒業
2018年 東京藝術大学大学院美術研究科芸術学専攻美術教育 修了

楮紙に、岩絵具など日本画の画材を用いて風景画を描きます。作品では、永遠ではない景色の移り変わりの中で、この世界に実在する美しい形や景色を知りながら、自分や誰かにとっての「居場所」を描きたいと思っています。
人の営みも自然も、長い年月の中で永遠にあり続けることはできませんが、変化や失われる中にある美しさや希望、痕跡を拾い集めて、私は私が美しいと思える新たな景色を描き記していきたいです。2014年度三菱商事アート・ゲート・プログラム奨学生、2016年シェル美術賞入選、2017年東京藝術大学安宅賞、2021年雪梁舎フィレンツェ賞展大賞他多数活動。


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