Artist in Residence Program 2024

雲ノ平山荘

雲ノ平山荘
アーティスト・
イン・レジデンス
プログラム 2024

Artist in Residence Program

at the Kumonodaira Mountain Hut

今年も雲ノ平山荘ではアーティスト・イン・レジデンス・プログラムを開催します。

本プログラムは「アートを通じて社会と自然環境の調和をデザインする試み」として2020年からスタートしました。これまでの4年間で、絵画、写真、彫刻、音楽、ダンス、バイオアート、伝統工芸、アニメーションや漫画などの多分野にわたる計25名のアーティストを迎え、雲ノ平では多彩な活動が展開されました。

環境危機が叫ばれる現代、ともすると「環境」や「自然」は抽象的、科学的な概念として扱われ、危機という響きとは裏腹に、取り扱いやすい、きれいなイメージが先行して語られる傾向も見受けられます。その中で、アーティストたちが一個人として改めて原生自然に遭遇し、身体性や直感を通して、雲ノ平という土地や、生命の営みに巻き込まれていく時、「自然」に対するどのような視点が生まれてくるのか。
このプログラムは、そうした「自然」との遭遇の段階から世界のありようを見つめなおす試みでもあります。

参加アーティストたちの見出した「自然」へのまなざしは、これまで2回開催した成果展で、鮮明なインパクトとして私たちの前に現わされました。
昨年の春(4月〜7月)、東京と山梨で巡回形式で開催された第2回成果会【Diffusion of Nature 土と夢】(https://kumonodaira.com/exhibition-2023/)では、歴代アーティストと22年度の参加者が一堂に会し、原生自然と都市、地方、色彩や造形、映像、身体表現、言語や科学的思考など、あらゆる場所性や表現媒体の垣根を超えた出会いや交流が展開され、改めてこのプログラムの可能性を感じさせる大きな手応えを得ることができました。

引き続き、こうした具体的な実践を積み重ねる中で、自然生態系と都市、アートの新しく創造的な関係性が育まれる機運を作っていきたいと思います。
なお、次回の展覧会は2025年の春を予定し、準備を開始しています。

みなさまのご応募をお待ちしております。

通常ならば長期滞在することが困難な北アルプスの最奥地にある雲ノ平の自然に浸って、新しい表現に挑戦してみてはいかがでしょうか?
自分で現地まで歩く能力は必要ですが、生活面は全てこちらでサポートします。

コンセプト

山をめぐる表現活動に、もっと多様性があっても良いのではないか?という思いがこの計画の根底にあります。

今、世界を見渡すと「自然との関係性」を見直そうという機運が、至る所に見受けられます。
環境危機や資源の枯渇、その背景にある資本主義の暴走、格差問題、情報化の混乱など、人類の繁栄そのものが自分達の危機でもあるという矛盾した状況の中で、「自然とは何か」という問いが、日増しに大きな疑問符になって突きつけられています。その問いに向き合うためにも、まずは足元にある自然に改めて目を向けることで、気付くことがあるのではないでしょうか。

日本の自然環境は世界の中でも指折りの豊かさを誇り、生物の多様性や景観の美しさの面でも非常に優れた特徴を持っています。また、江戸時代以前の日本は、木造建築文化や茶道、花道、陶芸や漆芸といった多彩な工芸など、豊かな自然の資源を生かした独自の文化で彩られていました。しかし、20世紀以降の近代化の流れの中で、古い文化は急速に放棄され、「殖産興業」に傾倒するあまり近代思想としての自然保護運動も根付かず、現在は自然生態系と人間社会の分断が著しい状況になってしまっています。

年間1000万人に迫る莫大な数の登山者が利用する北アルプスのような国立公園でさえ予算や人材が著しく欠乏し、自然保護のシステムがほとんど存在せず、社会に自然の価値や魅力を発信するべき学問や芸術の分野も低迷する中、各地で山は荒廃が進んでいます。

これも、アウトドアカルチャーが普遍的な文化、日常生活に根ざした自然観の領域まで根付いておらず、あくまでも「趣味」の一ジャンルとして扱われてきた弱さだと言えます。

この状況を打開するにはどうすれば良いでしょうか?
言論活動として問題提起が必要な一方で、同時に求められるのは、より豊かな想像力を持ち、文化としての懐を深めていくことなのではないかと私たちは考えています。

それは、経済の発展が自然環境や生活を破壊し、一方で自然保護派は現代社会を全否定する、という対立の連鎖ではなく、山と街、歴史と現代、生活や産業を緩やかなグラデーションでつなぎ合わせ、高次元に調和した環境を社会のデザインとして生み出すことです。
都会の喧騒を逃れて山を訪れるだけではなく、山で育んだイメージを都市の創造性に還元し、日常的により多くの人々が自然の価値について考える機会を作ることで、自然環境と都市空間の分断を解消していく。

経済活動と自然環境は必ずしも矛盾するものではありません。むしろ持続可能な経済とは、人の幸福感や身体性を伴った感受性、世界の美しさを抜きにして語れるものではないはずです。

こうしたことを理屈抜きに証明するためにこそ、芸術表現の発展は不可欠なのです。

夜、雲ノ平の平原にたって目を閉じれば、そばにあるのは、空と大地だけ。街灯りはなく、あたりは山々の影が冷厳とそびえ、谷底からは太古の昔と変わらない黒部川の沢の音がかすかに聴こえてくる。夜明けには、鳥たちのさえずりが薄明の中新しい一日の到来を告げ、日の出とともに湧き上がる谷風は花々をそっと揺り起こす…
雲ノ平はあるがままの自然のエッセンスを表現者の精神に取り込むのに、この上ない環境だと言えるでしょう。

自然の存在は、あらゆる芸術の根源的な衝動を孕んでいます。
無限の色彩、大地の豊穣、圧倒的な破壊をもたらす地殻変動、死と再生の森。そのダイナミズムは古代文明の呪術的な宗教美術からコンテンポラリーアート、生活の道具から商業デザイン、念仏からクラシック音楽、パンクロックに至るまで、全ての芸術活動を内包していると言っても過言ではありません。
人と自然の触れ合うところに常に、アートは生まれてきたのです。

山小屋が、人と自然の新しい関係性を創造する基地として、最大限生かされるためにはどうすれば良いのか。その想いから今回の「雲ノ平山荘アーティスト・イン・レジデンス・プログラム」は生まれました。
こうした小さな一歩が、私たちが生きる世界に対する理解を深める手がかりとなり、手詰まり感のある国立公園問題や、アウトドアカルチャーの可能性にとっても、ポジティブな刺激になることを願っています。

絵画、写真、グラフィックアート、建築、文学など、あらゆる分野の表現が対象となります。
もちろん「明るくて優しい」表現である必要もなく、暗く激しい表現も歓迎します。

雲ノ平の自然から、みなさんなりの新しい表現を引き出していただければ嬉しい限りです。

多くの方の応募を心からお待ちしています。

募集要項

2024年の募集は終了しました。


share