渋田 薫|Kaoru Shibuta

雲ノ平山荘

渋田 薫|Kaoru Shibuta

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【渋田 薫さんの仕事】

雲ノ平山荘にたどり着いたその日まで、渋田さんは本格的な登山をしたことはなかった。
ただ、それは彼にとっては大した問題ではない。そこに自分を惹きつける世界があり、制作と発表の機会がある限り、旅を続ける。
北海道で生まれ育ち、両親と死別して10代で少年自衛官になった後、メイキャップアーティストに転身し、いつしか画家を志すようになった。以来、独学で研鑽を積んできたのである。近年は国内外で評価されるところとなり、ドイツ、インド、フランス、ロシア、フランスなど、世界各地で滞在制作や展示に招かれるようになった。そんな矢先、コロナ禍で海外への道が閉ざされたことによって、むしろ雲ノ平への道が開いたのだ。
彼の創造の源は、音楽である。
主には、クラシックの楽曲から得られたインスピレーションを共感覚的に色彩や造形に変換し、絵画を描く。パウル・クレーなどの作品に類似性を見出すこともできるが、確かに彼の絵は、より純粋に音楽的だと言えれかもしれない。まるで音符が色彩をまとって現実世界に飛び出しているかのような、空間的な流動性や躍動感を感じさせられる。彼が絵の骨格となる線描を描く時、穏やかな人柄からは想像もできない、瞬発的で力強い筆致に驚かされる。そこにはまさに、その刹那に捉えた音楽と造形の融合ともいうべき境地が垣間見えるのだ。
そんな渋田さんも、雲ノ平という土地で自然の風景や生命の営みに触れるに従って、かつてない感覚の変化を経験することになったと言う。
元来内なる音楽に依拠して作品を描いていたところを、自然界の圧倒的なエネルギーの中に身を置くことによって、精神と外部の世界との境界線が自ずから解き放たれ、風景と音楽とを重ね合わせて描くことを試み始めたのだ。
雲ノ平での滞在中に描いた作品では、確かに日頃僕たちが親しんでいる様々な自然のモチーフが象徴的に溶け込んでいる様を見てとることができる。
草花や雷鳥、太陽や岩の影、虫たちのざわめきが渋田さんの中で音楽となり、新しい生命を与えられて絵画になる様は、僕たちを見たこともない音楽的な異世界へと導いてくれる。思えば、彼の絵画はオーケストラの指揮者の指揮棒に絵の具を仕込んで奏でる、ポップな交響曲のようでもある。

(文:伊藤二朗 撮影:森田友希、赤錆健二 編集:赤錆健二)

Artwork

Symphony

雲ノ平山荘からの眺め

ヘリコプターのある風景

ホシガラス

Kaoru Shibuta

(1980年生まれ/北海道出身/京都拠点)2003年 Kanebo Make-up Institute,2000年 Pan Make-up School卒業

北海道の自然でのびのびと育ち、少年自衛官、メイクアップアーティスト、植物店、料理人などの職を経て作品制作を開始する。
「世界は音によって繋がっている」という考え方に基づいて、音楽や自然音から得られた感覚を絵画やインスタレーションに変換する表現手法を追求している。
2018年より、バルセロナ芸術文化センター、サンタモニカ美術館、エリザベスジョーンズアートセンター、ロシア国立現代アートセンターNCCA、Artist's Point Meghalaya など世界各地のアーティストインレジデンスで制作発表を行う。
2020年はイタリア・アルテラグーナプライズにおいて特別賞をダブル受賞し、活動の幅を広げている。


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