四ツ井 健|Ken Yotsui

雲ノ平山荘

四ツ井 健|Ken Yotsui

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【四ツ井 健さんの仕事】

流水にたゆたう花々、切り立った稜線から眺望する夜明けの地平、ハイ松やクマ笹が織りなす生物のモザイク模様…四ツ井さんが着物にほどこす意匠には、登山をしている者であれば一度は見たことがあるであろう自然界の様々な瞬間が刻み込まれている。
四ツ井さんは金沢の伝統工芸の世界で長年厳しい競争を生き抜いてきた、辣腕の友禅作家である。僕自身、これまで古今東西の工芸の世界には親しんできたつもりだが、彼の作品を一目見た瞬間に、その卓越した技術と、均整のとれた美しさに思わず息を飲んでしまった。
日本の伝統美を、保存されるべき遺産としてではなく「今を生きる表現」として受け継いで行くにはどうすれば良いのか。着物という日常の道具である以上、それは「用の美」であり、個人表現とは一線を画した、自然、歴史、社会、個々の生活観の織りなす調和として最も輝くデザインでなければならない。調和の美を、いかにして生み出せるのか…彼は自らに問いかけ続けている。
独自の道を切り拓き続ける四ツ井さんの物作りの姿勢には、歴史的なアイデンティティーを背負う者ならではの重みと執念を感じる。伝統を鵜呑みにするのではなく、一度あらゆる技法やデザインを自らの五感を通して解体し、徹底的に改善点を模索し再構築し、新しい日常に寄り添う美しさを求め続けること。デザインの清新さもさることながら、下絵、伏糊、地染、手挿など、多くの場合分業に頼る友禅染の複雑な作業工程を全て一人で行い、作品の端々に至るまで緻密な意図を織り込んでいくその制作姿勢は、現代では極めて異色である。
若い頃から登山に親しんできた四ツ井さんは、近年積極的に山の自然を作品のモチーフとして用いるようになる。自然(花鳥風月)から離れて空洞化した日本美術の核心部に、直感的に踏み込んで行く洞察力が四ツ井さんの強さであり、人跡も疎な無垢な自然環境に、改めて個を超越したデザインを見出したのだ。そしてその重さを微塵も感じさせない、自由で磊落な人柄こそが、四ツ井さんの生み出す「美」の源泉であるように思う。

(文:伊藤二朗 撮影:森田友希、赤錆健二 編集:赤錆健二)

Artwork

Keikoku
※今夏、手拭いとして発売予定

Ken Yotsui

昭和37年(1962年)金沢市生まれ。友禅作家。日本工芸会正会員。

高校卒業後、金沢市内友禅染工房で10年間の修業を終了し友禅作家として独立。その後制作、販売ともに自由な活動を行い「友禅という仕事を通し何を社会に還元できるのか」を常に考え日々の制作を行っている。
小学生の時、初めて白山登山を体験した事をきっかけに、現在も登山を趣味で楽しんでいる。10年程前より「登山で出会った素敵な風景や花から得た感動を友禅という伝統技法を通し作品制作ができないものか」と考え、日々の作品づくりから日本伝統工芸展等の公募展出品作品まで「山」をテーマに制作発表を続ける。
2009年第43回日本伝統工芸染織展・友禅着物「源流」で日本経済新聞社賞、2014年第48回日本伝統工芸染織展・友禅着物「流水」で東京都教育委員会賞等を受賞し高い評価を受けている。


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