雲ノ平山荘を取り巻く仕事人たち|Professionals

雲ノ平山荘

雲ノ平山荘を取り巻く仕事人たち|Professionals
森田 友希
Yuki Morita
写真家/美術家
獣のような直観力によってある日「山」を志した気鋭の若手写真家。2013年にスタッフとして雲ノ平山荘の住人になって以来、今では私伊藤二朗と共同で写真展【moun/age展】を企画するようになった。

2017年にはイタリアのL'ARTIERE社から「OBLIQUE LINES」という写真集を出版。この本では統合失調症の自らの兄の視点を通して、人の生に潜む、現実と夢の際どい境界線を先鋭的な手法で描き出している。彼は、その他にも各地のコンペティションでの受賞など活躍の場を広げつつも、真実を求めるあまり、目下コマーシャリズムにも金にも縁遠く暮らしている。
寄稿窓のなかの山
台所の窓から西日が差し込む。
窓の外に目を配れば、木々の葉に反射した光が夏の到来を告げている。
その木々の隙間からはアパートや住宅が、そして遠くに山が見える。
物心つく頃から眺めていた窓からの景色、その片隅に山がある。
私はここ数年、1年のうち数ヶ月を北アルプスの山深い場所で過ごした。
それまで私にとっての山は、夕日にかかる黒い影のような存在でしかなかったが、いくつもの山や川を越えて辿りつく先にある雲ノ平で過ごした時間は、私が知らずのうちに忘れてしまっていた“なにか”を思い出させた。
その“なにか”というのは、まだ私には言葉ではうまく指し示すことはできない。
そして、恐らく私は、その“なにか”を知りたくて、山へ分け入ってゆく。
こうして居間のソファに腰をかけていると、カーテンや窓のなかの木の葉を揺らす風も、空に浮かぶ雲も、あの北アルプスの山々で生まれたのではないか、とふと思う。雲ノ平で過ごす日々の記憶が、ふいに日常で過ぎる瞬間、私にとって山はとても身近な存在として立ち現れる。
それから、雨も降っていないのに、雨が土を濡らす匂いを、庭にはためくシーツを眺めながら、芽吹く山を吹き抜けていく風の軽さを、思い出す。これら雲ノ平の記憶は、山に居ない時にでも、その“なにか”を私に教えてくれる。
Yuki Motita
1989年生まれ。自己や他者の記憶のイメージを収集し、物語の構造をとりながら「不在」を テーマに写真や映像作品を展開する。2017年に写真集「OBLIQUE LINES」をイタリアの 出版社「L'Artiere Edizioni」コレクションとして刊行。雲ノ平には2014年より季節労働を しながら訪れている。