この写真展は雲ノ平での生活における旅の視点です。

今回展示を共催する森田くんは昨年イタリアのL'ARTIERE社から、「OBLIQUE LINES」という写真集を出版した気鋭の写真家だ。この本では統合失調症の兄の視点を通して、人の生に潜む、現実と夢の際どい境界線を先鋭的な手法で描き出している。彼は、その他にも各地のコンペティションでの受賞など活躍の場を広げつつも、真実だけを求めるあまり、目下コマーシャリズムにも金にも縁遠く暮らしている。

ひるがえって僕は、父の影響で少年時代から撮ってきた写真表現に、今ようやく本気で向き合い始めている。僕にとっての写真の原点は、青年期の寄る辺ない道端での独り言であり、景色との会話が写真というものだった。世界と自分を関連づける大切な手段だった。その感覚は今も通奏音として、胸の中に流れている。

ともあれ、彼と雲ノ平で過ごすようになってもう5年。お互いにそれぞれの彷徨いを続けながら、見えているような、見えていない世界の感触を探している。この展示を機に、雲ノ平の日常から垣間見える、ささやかな詩を発信していきたい。