新型コロナウィルスの感染拡大により、様々な状況下で困難に直面している方々に、心よりお見舞い申し上げます。また、危機的な状況下で懸命に医療現場を支えている皆様に、心からの敬意と感謝を申し上げます。


ここでは新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、登山者の皆さんに注意深く状況の把握に努めていただきたいことについて記します。

〈現状と今後の見通し〉

まず大前提として、緊急事態宣言が発令されている(4月中旬)現在、新型コロナウィルスの感染拡大スピードを遅らせ、医療崩壊を防ぐために、私たち一人ひとりが最大限の努力をしなくてはなりません。疫学的にもまだ解明が進んでいない未知のウィルスに対しては、極めて慎重に向き合う必要があります。まずは自分の健康を守り、家族や友人に感染させるリスクを避けるために「家にいる」ことを心がけましょう。
そしてこのことは、アウトドアレジャーも決して例外ではないのです。

登山に関する行動指針については、YAMAPの春山慶彦氏が発信している記事がとても参考になりますので、ご覧になってみてください。

「登山と自然を愛するみなさんへ、YAMAPからのお願い」
https://note.yamap.com/n/n5e5293998590

同時に、今後この感染症の流行が長期化し、社会的な対応に綻びが出てくることも十分に考えられます。ご存知のように、日本の緊急事態宣言は、強制力・罰則・補償を伴わないこと、当初から経済活動の継続との折衷案で曖昧な要素が多いこと、地域ごとに対応が異なり実態が掴みにくいことなど、その「緩さ」が指摘されており、緊急事態宣言によって、むしろ人出が増えている地域もあるようです。時短営業とはいえ、居酒屋や家電量販店が営業している(営業せざるを得ない)中で「山登りも危ない」と想像できる人がどれだけ居るでしょうか。しかし、登山の環境にも様々なリスクが発生しつつあります。

〈登山の現場で起こり得る様々なリスク〉

ここからは、今後登山の現場で起こり得る様々なリスクについて考えてみたいと思います。

これまでも様々な形で発信してきたように、日本では国立公園を所管する行政機関の人材や予算が不足しており、実効性のある管理体制が確立していません。北アルプスの場合、民営の山小屋が緊急避難場所であるとともに、登山道の整備、遭難救助、情報発信、キャンプ場の運営、公衆トイレの管理、行政や学術機関の活動拠点の提供など、多くの公益的な役割を担うことで登山の環境は維持されてきました。
そのため、今後コロナ禍に伴って山小屋が営業規模の縮小や休業を余儀なくされた場合、登山者の皆さんに様々な影響が生じることは避けられません。

特に心配されるのは以下のような事柄です。
(ここでは主に、影響が顕れやすい「営業小屋が多い山域」を想定しています)

① 山小屋が営業しない場合、その山域を管理する人材がいなくなります。

例えば、雲ノ平山荘ではシーズンで最大10名のスタッフがおり、宿泊業務以外にも適宜登山道整備や遭難救助の初動対応などの役割を担っています。しかし、営業休止(もしくは規模縮小)になった場合、山小屋は基本的にスタッフを雇うことができなくなります。建物の保守点検などのために2、3人程度の人手を駐在させるとしても、遠方の遭難救助や、台風などによる大規模な登山道の損壊には対応できなくなります。感染症対策の観点から、山小屋を避難施設として使えない可能性もあり、様々な局面で登山のリスクは大きくなります。

② キャンプ利用のマナーが求められます。

仮に、夏になっても事態が大きく改善せず、かつ社会活動の制限が中途半端な場合(地域によって異なる対応、移動の自由はある、曖昧な自粛要請で人々の判断に誤差が生じるなど)、山小屋は宿泊営業できず、キャンパーだけが大勢行き交うという状況も想定されます。

近年は繁忙期のキャンプ場の過度な混雑が、環境への負荷の観点から問題視されているものの、未だにほとんどの国立公園で、利用者数をコントロールする仕組みなどが整備されていません。
山小屋・キャンプ場の営業の可否や感染症拡大の推移次第ではありますが、管理体制が脆弱になった状況下では登山者の自立したマナー・責任感が強く求められます。

「山の荒廃」を防ぐために、以下のことを強く心がけてください。

  • 指定地外でテントを張らない
  • ゴミの持ち帰りや屎尿の処理の徹底
  • 植生の踏み荒らしをしない

③ 遭難救助の体制が脆弱になる可能性があります。

上記の項目と重複しますが、状況次第では遭難救助の体制が脆弱になることが考えられます。例年であれば、登山シーズンの繁忙期に、各地の山小屋に常駐する県警の山岳警備隊や遭難対策協議会のメンバーの動きも変わってくる可能性がありますし、診療所の開設にも影響が出る可能性があります。登山道の人通りが減少した場合、怪我をしても発見が遅れることもありえます。
登山者が各自でリスク管理をできるよう準備をする必要があります。

④ 山小屋の営業の可否に関わらず、少しでも新型コロナウィルス感染の疑いがある場合には、登山を見合わせてください。

一般的に、高山地帯では病気が平地に比べて悪化しやすくなる傾向もあります。また、感染症は他人の生命をも脅かす病気だということも改めて意識する必要があります。

以上のことを踏まえた上で、まずは山行計画を立てる段階で、山小屋の営業状況や遭難救助体制などの情報収集を慎重に行ってください。

〈おわりに〉

コロナウィルスによる緊急事態宣言や娯楽の減少によって「山に行くぶんには安全」と思う人もいるかもしれません。それは一面では真実ですが、このような状況下では、通常にはないリスクが生じ、いつも以上に登山者の危機管理能力やマナーが問われているということをも同時に理解していただければ幸いです。

そして繰り返しになりますが、私たちとしましても、今は新型コロナウィルスの感染拡大を一刻も早く収束させることが何よりも大切だという立場から、登山者の皆さんにも地域をまたいだ移動を最小限に抑えていただくことをお願いする次第です。

困難な時期ではありますが、力を合わせて乗り越えていきましょう。