若木 くるみ|Kurumi Wakaki

雲ノ平山荘

若木 くるみ|Kurumi Wakaki

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【若木 くるみさんの仕事】

自身の後頭部の頭髪を剃刀で剃り、そこにピカソの抽象画の如き顔面を描き、バレリーナの装束を着て湖に半身を沈めて踊り出す。
そんな人物を想像したことがあるだろうか?
彼女は突如最年少で岡本太郎賞を受賞した後、一連の激烈なインスタレーションを繰り広げた。世の中に背を向けて生きるのではなく、後頭部を晒して走り出す。反骨精神と、悲哀と、ユーモアの入り混じるカオスが、人の形をして踊っている。だが実は、卓越した表現力を持つ木版画家でもある。
それが若木くるみである。
彼女の絵筆や彫刻刀が、言葉が、表情が、手足が、何ものかを表現しない瞬間はない。空や大地から取り込んだ美を、自らの内側に向けた刃を、移りゆく生命を、一刻も弛むことなく表現し続ける。
「面白いこと」「誰もやっていないこと」を貪欲に追求する姿勢とは裏腹に、山荘に来た当初は、精神的な自己表現には自信がないと語っていた彼女に対して、はじめは僕も「インパクトや勢いで押し切るタイプなのか…?」と、少し穿った見方をしていた。だが、生み出される作品を経験するにしたがって、その予感は見事に裏切られた。
彼女の作品は、間違いなく「若木くるみ」にしか表現し得ない感性に満ちている。
自由奔放な発想の中にも、自然の美や人々に対する真摯な共感と、創造の喜びが貫かれ、「面白さ」の中に、女性的な、柔らかな眼差しが潜んでいる。その制作現場に居合わせる人々は、気づかぬうちに、彼女の世界に心打たれ、引き込まれてしまうのだ。
雲ノ平で制作した「森版画」は、現地の森の木々の樹皮のパターンを版画のバレンとペンキで写し取り、それに様々な動物や昆虫のイメージをあしらった作品だ。大木によじ登り、森と一体化しながら制作した作品は、ただの二次元作品ではなく、森の生命感そのものが刻みつけられた彫刻作品でもあり、紙を樹木に見立てて擬似的に森を再構成する空間芸術にも変貌する。
かくして、若木くるみは今日も走っている。
これからも、彼女の存在そのものが僕らにとって「素晴らしい事件」であり続けるだろう。

(文:伊藤二朗 撮影:森田友希、赤錆健二 編集:赤錆健二)

Artwork

バウムクーヘン

みんなでバウムクーヘン

ー 若木くるみの絵日記 ー

Kurumi Wakaki

1985年 北海道生まれ。

定期代を着服して徒歩で通学した高校時代を経て京都芸大に入学。美術よりも持久走のほうに俄然適性を感じ、マラソンに入れ込むようになる。野山を駆け回ってつくられた強靭な肉体を作品の素材として用いることで、なんとなくすごそうに思わせて美術家風情を漂わせることに成功。ランニングとアートを絡めた強引な手口で活動中。
主な受賞に2009年岡本太郎賞、2013年台湾環花東超級マラソン333km優勝など。


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