特集|Features

雲ノ平山荘

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雲ノ平山荘の物作り
 僕は雲ノ平山荘の建築を行って以来、居住空間をデザインするということに強く惹かれている。こんなにも理屈抜きに、直接的に、自然や景観、人々の心にアクセスする方法はないのではないかと思うのだ。

 例えば唐招提寺のような、古い寺院の境内に踏み入った瞬間、拒むすべもなく、ある種の鎮静とした、それでいて透明に張り詰めた心持ちになるのはどうしてなのか。あるいは山里の古民家の室内に漂う、周囲の自然と人間の繰り広げた葛藤を凝縮したような野太い生命感や、卓越した近代建築家、ガウディやル・コルビジェの建築空間に踏み入った時に覚える、機械科学と自然、歴史、個人の精神性などが重層的に調和して、不思議な物語に包まれるような感覚は、何なのか。

 デザインは音楽のようだと思う。無限の選択肢の組み合わせの中で、人にしか奏でられない色彩や造形のハーモニーを生み出す。自由なようでいて、異質なものが入り込むと簡単に壊れてしまう。

 また居住空間は、何よりもそこで時を過ごす人々が創造するものでもある。壁や床、空気にさえ、人々の気配や思いが染み込んで、時を経るごとに自律的な生命として歩み出すようになる。

 毎年、僕自身が持ち合わせている木工の技術を使い、自らコツコツと家具や調度にマイナーチェンジを加えつつ、各地で出会った各種作り手に依頼して雲ノ平山荘に新たな物作りの息吹を加えている。こうしたことを通じて、現代の文化と自然環境、人間の創造性を具体的に結びつける豊かなイメージを提案できれば何よりだ。

 山小屋らしくない、という人もいるかもしれないが、資源やエネルギーを無闇に消費しない「想像力の贅沢」は、すればするほど良い、というのが僕の考えだ。雲ノ平に溶け込んだ、心地よい音楽のような時間を生み出したいと思う。